昭和十五年。考古学者本郷直樹は次男の真二が自分と同じく学問の道を志すことを喜んでいた。兄の英一は父の()意に反して海軍少尉に()なっていた。一方、船()大工の小田切武市は一人息()子の正人()が海軍兵学校に合格したので有頂点になっていた。十八年間海軍に勤めて()も下士官止りの武市は正人の将来は約束されたと信じて疑わなかった。一年が過ぎた。世界情勢は日毎()に緊迫の色を強め、戦争の予感は現実のものになろうとしていた()。昭和十六年十二月八()日、早期和平を強調する山本五十六のもとで、連合艦隊は、ハワイ真珠湾に奇襲をかけた。次々と炎上する米海軍の戦艦群を、英一は興奮の面持ちで見つめて()いた。その頃、五年の歳月と建艦技術の粋を集めた空前総後の巨艦、大和が完成した。山本()はアメリカに時間を与えず、早期和平に持ち込もうと、ミッドウェイ作戦に賭けた。しかし、作戦は失敗に終り、戦局は消耗戦へと展開していった。数々の戦闘を体験している英一は、死()を覚悟し、()婚約者()の陽子と式を挙げたが、指一本触れずに戦場へもどった。やがて大学生の真二も召集され兵学校を卒業した正人も武市の意に反して零戦に乗る決意をして()いた。日本軍は劣勢に回()り、起死回生のレイテ作戦に出た。英()一は戦場で真二と出会った。陽子へ()の仕打ち()を()なじる真二に「陽子()を頼む」と遺書を()残し()て英一は大空に散った。英一の残し()たライフ・ジャケットのために沈む船から脱出した真二は、生きる喜びをあらた()めて知り、陽子と生きようと陸上勤務を志願するが、大和へ()の転属()を命ぜられる。死を目前にして真二は陽()子を抱けなかった兄の気持を初めて理解した。陽子は逆だった()。愛する()人に抱かれたい。陽子は真二に激しく体をぶつ()けるのだった。同じ頃、()正人は特攻()を志願してい()た。武市は息子の出世に固執()し兵学校へ行か()せた己の浅薄さ()を呪い戦争の恐しさを痛感した。戦況は挽回()の余地もない所まで来ていた()。そしてついに、最()後の切札、大和()の沖縄への水()上特攻が計画されるに至った。大和は()出撃した。真二も正人もその中にいた。そして、陽子、武市、多くの肉親を残して、大和艦上の戦士たちはその命を沈めていった。
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